大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(行ウ)53号 判決 1980年8月26日

原告 渋谷幸男 外一四名

被告 吉野雅久

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告ら

1  田無市が別紙物件目録記載の土地につき所有権を有することを確認する。

2  被告は田無市に対し別紙物件目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  原告らは、東京都田無市の住民である。

2  田無市は、昭和五三年四月三日被告に対し、同市所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を代金四二一一万七一〇〇円(一平方メートル当たり三七万円)で売り渡し、同月二一日その所有権移転登記を経由した。

3  しかし、本件土地の時価は一平方メートル当たり一〇〇万円を超えるものであるから、右売買契約(以下「本件売買契約」という。)は、適正な価格によらないものとして地方自治法二三七条二項の規定に違反し、また、一般競争入札によらず随意契約の方法によつたものであるから同法二三四条の規定にも違反しており、無効である。

4  そこで、原告らは、田無市監査委員に対し必要措置を求めて地方自治法二四二条の規定に基づく監査の請求をしたが、同監査委員は、昭和五四年四月一七日原告らが求める措置の必要はない旨の監査結果を通知してきた。

5  よつて、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、第一の一記載の判決を求めるため、本訴に及んだ次第である。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1、2及び4の事実は認める。

2  同3のうち、本件土地の時価が一平方メートル当たり一〇〇万円を超える事実は否認し、本件売買契約が随意契約の方法によつた事実は認め、その余の主張は争う。

三  被告の主張

1  東京都は、昭和四九年一二月二五日東京都告示第一三三九号により、田無都市計画田無駅北口地区市街地再開発事業(以下「本件市街地再開発事業」という。)に関する都市計画決定を告示した。また、東京都知事は、昭和五二年一月二一日、本件市街地再開発事業に関し都市計画法五六条一項の規定による土地の買取りの申出の相手方として田無市を指定した旨を公告した。

2  被告は、本件市街地再開発事業の施行区域内の田無市本町四丁目四〇二番一宅地二五七・〇六平方メートルのうち一一二・七八平方メートル(以下「本件関連土地」という。)を所有者海老沢英夫より賃借し、その上に建物を所有して居宅兼診療所として使用していたが、同建物の改築を計画し、昭和五二年七月五日都市計画法五三条一項の規定に基づき東京都知事に対し同改築の許可申請を行つたところ、東京都知事は、同年九月二一日同法五五条一項の規定に基づき不許可の処分をした。そこで被告及び海老沢英夫は、同月二六日同法五六条一項の規定に基づき田無市に対し本件関連土地を買い取るべき旨の申出をした。田無市は、財団法人日本不動産研究所及び淵上不動産鑑定事務所の各鑑定結果を参考に、本件関連土地を一平方メートル当たり三二万円(借地権割合六五・二パーセント、底地割合三四・八パーセント)で買い取ることを決定し、昭和五三年二月一七日被告と借地権消滅補償契約を、海老沢英夫と土地売買契約をそれぞれ締結し、同年三月六日所有権移転登記を経由した。

3  この間、被告は、都市計画法七四条一項の規定に基づき田無市に対し代替地取得についての斡施方を申し出ていたが、昭和五三年二月一五日田無市の所有地である本件土地の払下申請を行つた。田無市は、右申請どおり本件土地を被告に売却するこを決定し、本件土地の価格の鑑定を財団法人日本不動産研究所及び東宝不動産事務所に依頼し、両者の各鑑定の結果を参考に本件土地の価格を一平方メートル当たり三七万円と評定したうえ総額四二一一万七一〇〇円で売却することを決定し、同年四月三日被告と本件売買契約を締結した。

4  以上のとおり、本件土地の売買価格(一平方メートル当たり三七万円)は、二つの不動産鑑定事務所の鑑定結果を参考に決められたもので適正であり、また、本件売買契約は、その性質又は目的が一般競争入札に適しないもので、随意契約の方法によつたことにつき違法はない。したがつて、本件売買契約は有効であり、被告の本訴請求はいずれも理由がない。

四  被告の主張に対する原告らの認否

被告の主張1の事実は認めるが、同2及び3の事実は不知、同4の主張は争う。

第三証拠<省略>

理由

一  原告らの請求原因1、2及び4の事実並びに被告の主張1の事実については、当事者間に争いがない。

また、被告の主張2及び3の事実は、成立に争いのない乙第五号証、乙第一一号証、乙第一二号証、乙第二七号証及び乙第二八号証、証人井上孝行の証言並びに同証言により成立の認められる乙第八号証、乙第九号証、乙第一三号証ないし第二六号証(原本の存在については当事者間に争いがない。)及び乙第二九号証によりこれを認めることができ、この認定に反する証拠はない。

二  右に述べた被告の主張1ないし3の事実に照らせば、田無市が本件土地を被告に売却した行為は、本件市街地再開発事業の施行区域内の本件関連土地につき借地権を有する被告が、田無市に対し、都市計画法五六条一項の規定に基づき地主と共同で本件関連土地の買取り方を申し出るとともに、同法七四条一項の規定に基づき生活再建のため代替地の斜旋方を申し出たことに応じてなされたものであるから、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号所定の「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当し、随意契約によることが許されるものというべきである。したがつて、本件売買契約が一般競争入札の方法によらなかつたから違法であるとの原告らの主張は採用できない。

三  次に、本件売買契約が適正な価格によらなかつたとの原告らの主張について検討する。

1  前掲乙第一一号証及び乙第二〇号証ないし第二三号証並びに証人井上孝行の証言によると、本件関連土地と本件土地とは隣接しているところ、田無市は、昭和五三年二月一七日本件関連土地を地主の海老沢英夫と借地権者の被告から一平方メートル当たり三二万円(底地割合三四・八パーセント、借地権割合六五・二パーセント)の価格で買い取つたことが認められる。

2  前掲乙第八号証によると、財団法人日本不動産研究所は、田無市の依頼により本件土地のうち四〇二番一〇の土地の昭和五三年二月一五日現在の時価を鑑定し、地価公示法の標準地(前掲乙第二九号証によると、本件土地の北東方約四〇メートルに位置することが認められる。)の公示価格(昭和五二年一月一日現在一平方メートル当たり三四万五〇〇〇円)を規準とした価格、取引事例比較法を採用して求めた価格(基礎とした取引事例は近隣地域又は同一需給圏内の五例)、及び収益還元法を採用して求めた価格を総合し、本件土地を一平方メートル当たり三八万円と評価したことが認められる。

3  前掲乙第九号証によると、東宝不動産鑑定事務所は、田無市の依頼により本件土地の昭和五三年二月一五日現在の時価を鑑定し、取引事例比較法を採用して求めた価格(基礎とした取引事例は近隣地域又は同一需給圏内の二例)、収益還元法を採用して求めた価格、地価公示法の標準地の公示価格を規準とした価格、及び東京都の地価調査基準地(前掲乙第二九号証によると、本件土地の北方約六〇メートルに位置することが認められる。)の調査価格(昭和五二年七月一日現在一平方メートル当たり二五万二〇〇〇円)を規準とした価格を総合し、本件土地を一平方メートル当たり三七万円と評価したことが認められる。

4  鑑定人石渡伸和は、取引事例比較法を採用して求めた価格(基礎とした取引事例は近隣地域又は同一需給圏内の七例)、収益還元法を採用して求めた価格及び地価公示法の標準地の公示価格を規準とした価格を総合し、本件土地の昭和五三年四月三日現在の時価を一平方メートル当たり四八万円と評価している。

5  前掲乙第二九号証によると、田無市は、取引事例比較法による価格、地価公示法の標準地の公示価格を規準とした価格及び東京都の地価調査基準地の調査価格を規準とした価格を独自に算出するとともに、前記2及び3の鑑定価格等を参考として、本件土地の昭和五三年三月一日現在の時価を一平方メートル当たり三七万円と評価したうえ、同評価額で被告と本件売買契約を締結したことが認められるが、前記1ないし4で述べたところに照らせば一平方メートル当たり三七万円の売買価格が本件土地の対価として不当に低廉であるとは到底認められない。

6  もつとも、原告渋谷幸男の本人尋問の結果及びそれにより成立の認められる甲第三号証によると、豊土地有限会社は、本件市街地再開発事業施行区域内に居住する住民の依頼により、本件土地の近隣地三か所の昭和四九年一〇月一日現在の時価を鑑定し、一平方メートル当たり一二九万四〇〇〇円ないし一四九万一〇〇〇円と評価したことが認められる。しかし、この鑑定は、近隣地域における取引事例二例を主たる根拠となすものであるが、一例は借地権の売買事例で買主が隣地に所在する家屋の借家人であり、時価より高くともこれを入手しようとする特殊事情が考えられるにもかかわらず、この点について何ら触れておらず、また、他の一例についてはその取引価格を地域格差を理由に一挙に四倍に修正するなど、全体としてその客観性は前記2ないし4の鑑定に比し劣るものといわざるを得ず、前記判断を左右するものとはいえない。また、原告渋谷幸男本人は、その尋問において、本件土地の近隣地の昭和五三年四月ころの世評価格は三・三平方メートル当たり五〇〇万円であつた旨供述するが、特に客観的根拠を有するものではなく、前記判断の妨げとなるものではない。

7  したがつて、地方自治法二三七条二項違反を理由として本件売買契約の無効をいう原告らの主張も失当である。

四  よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 泉徳治 岡光民雄)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例